エストニアからウクライナへ
どうも、こんにちはゆみこです。エストニアから飛んで、今はウクライナにいます。(またしばらくしたらエストニアに戻りますが)
「旧ソ連ばっかり行って、ロシアのスパイか?」と元同僚に疑われましたが、ヨーロッパのビザが切れたので、エストニアから出ただけです。
が、ヨーロッパ外の国の中でも、ウクライナを選んだのには理由があります。
→エストニアのスタートアップ界隈にいる人なら知らない人はいない、エストニアのスタートアップシーンの核を担ってきたコワーキングスペース『LIFT99』がエストニア以外の初海外拠点としてウクライナ・キエフに新しいLIFT99をオープンするのです!
このニュースを知った時、「なんでウクライナ?! ウクライナに一体何があるの?」と一気に興味が湧きました。そして、ちょうどヨーロッパから追放されるところだったので、ウクライナ・キエフに来ました。
そして今回は、なんとそのLIFT99の共同創設者本人がキエフにちょうどいるということで、インタビューさせて頂きました!
(わたし的には、とても嬉しい&びっくりな出来事でした)
隠れたIT人材大国・ウクライナ。世界で成功するスタートアップも続々と
– なぜウクライナにLIFT99を建てようと決めたんでしょうか?
私たちは、ウクライナの優秀な人材に惹かれて、キエフにLIFT99を建てることに決めました。あまり知られていないかもしれませんが、ウクライナには優秀なエンジニアが豊富に存在します。エンジニアは、20万人もいるんです!
彼らには経験もあります。人件費の安さも手伝って、アウトソーシング先としてウクライナのエンジニアは重宝されてきました。グローバルマーケットに出回っている製品にも多くのウクライナ人エンジニアが携わっています。
またアウトソーシングだけではなく、ウクライナ発のスタートアップも成長し始めています。英語スペルチェックのGrammarlyや、ペット用監視カメラのPetCubeは、海外からも投資を受けています。
◎Ragnarさんおすすめの、ウクライナ発スタートアップ
・Grammarly:ウクライナスタートアップのトップ
ウクライナスタートアップの中でも群を抜いて成長中のGrammarly。ユーザー数690万人、資金調達額1.1億ドル/約123億円(ともに2017年時点、TechCrunchより)。
普通に使っている人も多いのでは? わたしはウクライナ発だとは知らず、使ってました。Google Chrome拡張機能として使える。しかし英語のスペルチェックを、まさかウクライナのスタートアップがやっているとは想像つかなかった。しかしメイン住所はサンフランシスコなので、今は”アメリカ企業”なようですが(これについては後述します)。
・PetCube:ペット用お留守番カメラ
ウェブサイトは日本語にも対応していて、驚き。「ペットも家族」という考えは、国を問わず多くの人に受けそう。
・DroneUA:農業用ドローン
「農業大国ウクライナならではのスタートアップ」とRagnarさんが紹介してくれたのがDroneUA。ドローンが大規模農地の様子を観測・分析した結果を農家に伝える。
他のウクライナスタートアップがウクライナ外での活躍が目立つ中、DroneUAはウクライナ内でのマーケットも大きい感じがする。オフィスもウクライナ。
・Preply:オンライン外国語講師
オンライン外国語チューターを探すプラットフォーム。17万人ユーザー。講師は2万5000人。
Preplyの社員さんによると、最大のマーケットは、アメリカに移住してきたばかりで英語を学びたい外国人だそう。日本語チューターもある。ここも、”アメリカ企業”。
〜〜では、Ragnarさんのお話に戻ります〜〜
ウクライナの強みのもう一つは人の多さです。
エストニアは人口130万人です。ウクライナの人口はその34倍、4500万人です。
エストニアには現在500のスタートアップがあります。ウクライナは今2000社と言われています。エストニアと同じスタートアップ/人口比になれば、2000社が17000社になる可能性だってあるはずなのです。
また、ロシアがクリミアを併合する前は、ウクライナはヨーロッパのどの国よりも1番土地が広い国でした。人口の意味でも、土地の意味でも、ウクライナは大国なんです。
– なぜウクライナには優秀な人材がそんなに揃っているのでしょうか?
教育のおかげだと思います。ある意味で、ソ連式の教育のおかげと言ってもいいかもしれません。ソ連は、特に数学やITに力を入れていましたから。
さらに、ウクライナはソ連の中でも宇宙開発の拠点となっていた土地です。ソ連時代、宇宙研究の半数以上がウクライナで行われていました。
今でも、ウクライナは世界で1番大きな飛行機を作っています。ボーイングなんかよりもずっと大きな飛行機を作ってるんですよ。
ウクライナの大学も、医学部やITは水準が高いです。アジア特にインドやインドネシア、そしてアフリカから、低価格で勉強したいという留学生が結構来ていますよ。
– それは知らなかったです。でも、ウクライナ政府は腐敗していますよね……にもかかわらず、なぜ教育水準は高いのでしょうか? 普通、腐敗した政府を持つ国は、教育も悪くなりませんか?
それは、確かにその通りですね。もしかしたら教育が良いのは、ソ連時代の名残かもしれません。
ただ問題はこれからです。
ウクライナでは先生のお給料がとても低いです。誰も先生になりたいという人がいなくなってきている。今は良いかもしれません、ただこれから5年後、10年後にウクライナの教育水準がどうなっているか。これは、非常に危惧すべき問題です。政府の腐敗は、教育セクターに必ず影響を及ぼすでしょう。
あとで調べたところ、ウクライナ全体の平均月給が8,480フリヴニャ(約3万3800円)に対し、教師の平均月給は7,600フリヴニャ(約3万円)だそう。それに比較して、キエフのソフトウェアエンジニアの平均は、2000ドル(約22万円)?! そりゃ、エンジニアを目指す人が多いわけだわ……。
“ウクライナ”ブランドはイメージダウン? 海外登記するスタートアップたち。
– ウクライナ政府が、ウクライナのスタートアップの成長を阻んでいるという指摘をいくつかの記事で読みました。「スタートアップ投資の法整備が整っていない/法律がない」「ウクライナのスタートアップと聞くと、政情の不安定さから海外投資家は敬遠してしまう」などなど…。この点についてはどう思われますか?
海外投資家が、ウクライナのスタートアップに投資することはほぼ無いですね、あまりにもリスキーなのです。ウクライナではなく、アメリカやエストニアのスタートアップとして会社登記することも当たり前です。
– 確かに、先ほど紹介して下さったPetcubeもPrePlyもGrammarlyもすべて”アメリカの会社”ですね。
でも逆に、投資家へのアクセスの無さによって、ウクライナのスタートアップは経済的に効率の良いやり方で起業しているとも言えます。ブートストラップ(自分たちの資金だけ)で起業しているところも多いです。
しかし、なによりも私たちは、政府云々でウクライナを選んだわけではありません。私たちは、ウクライナの「人」に惹かれて、この土地を選びました。優秀な人材は揃っている。あとは、彼女ら・彼らを次のレベルに持っていくことです。
– ウクライナ、特にキエフには既に多くのコワーキングスペースがあります。Lift99はどう彼らと違うのでしょうか?
彼らは不動産屋ビジネスです。私たちは、全く違う目的を持っています。ウクライナのスタートアップカルチャーを築くこと、そしてウクライナから世界で成功するスタートアップを生み出すことです。
私たちは、エストニアでの成功体験・ノウハウを、ウクライナに持ち込みます。メンターや投資家とのコネクション、スタートアップイベントなどをキエフに持ってくる予定です。
– しかし、エストニアと比べると英語ができる人が少ない気がしますが……。
それはそうですね。ただLIFT99が応援するスタートアップの条件は、グローバル市場を目指していることです。
ウクライナはロシアとの関係も悪いので、ロシア語圏の市場だけを狙うのではスタートアップとして成り立たないでしょう。
英語力も若い世代を中心に上がっていると思いますよ。ウクライナの英語力が低いと言いますが、日本の英語力もなかなか問題があると思いますけど?(突然の辛口)
ウクライナの技術力は本当に素晴らしいのですが、全般的に、英語やマーケティング・セールスといったソフトスキルはウクライナのスタートアップはまだまだ改善していく必要があると思いますね。そうした面でも、エストニアでのノウハウが生きてくるはずです。
エストニアとの最大の差は、ウクライナスタートアップの政府への不信用
– 政治面でもエストニアとは大きく異なりますよね。エストニアでは、政府がスタートアップと一丸となってエストニアのスタートアップシステムを支えています。ウクライナではスタートアップと政府の間でそうした協力関係は無さそうです。エストニアのモデルをそのままウクライナに移すのは難しくありませんか?
そうですね、政府とスタートアップの関係は、ウクライナはエストニアとは全く違います。
ウクライナであまり誰も話したがらない問題があります。私はこれを大きな問題だと思っているのですが、それはウクライナのIT企業が政府に税金を支払っていない・税金逃れをしているということです。
例えば、人を雇う時に、多くのIT企業が雇用ではなく、働く人を「起業家(entrepreneur)」として登録して、起業家との契約という体で給料を支払っています。そうすることで、普通の従業員として支払うよりも、税金が安くなるからです。
エストニアでは、スタートアップがエストニアにどれだけ税金を納めているかを非常に重視します。エストニアでは、スタートアップの納税データを発表しています。成功したら、地域に還元すべきです。
しかし、ウクライナではそうした意識がありません。
「なぜ税金を支払わないといけないのか?」「支払ったとしても、政府が正しく使うわけが無い」という考えが根強いです。でも、それでは誰が教育にお金を掛けるのでしょうか?
「政府を信用できない」、それはそうかもしれません。しかし、税金を支払わなければ、ウクライナの教育の質はどんどん落ちていきます。そうすれば、人材の質も落ちていってしまいます。
私たちはもはやスタートアップを超えて、そうした意識もウクライナに持ち込みたいと思っています。地域社会に還元する気のないスタートアップをLIFT99が応援することはないでしょう。政府が信用できないなら、ウクライナの人は自分で政治家を選ばないといけません。「投票に行きましょう」そんなところまで私たちは踏み込んでいます。これはもはやスタートアップ云々じゃないでしょう?(笑)
こうした考え方の変革も必要です。
エストニアの4倍? 煩雑な書類手続きも、「私たちはエストニア人ですから、ルールを守らずにはいられない」
政府の話が出ましたが、私は、政府よりも、腐敗した政府がもたらした人々のメンタリティのあり方がより大きな問題だと思っています。
ソ連的なメンタリティが未だ根深く残っていると感じるときがあります。それは、他人から盗む、なにかずるをすることで自分の利益を増やそうと考える人が多いことです。正攻法ではないやり方で儲けようという姿勢があると感じます。
残念ながらITセクターも例外ではありません。
最近、キエフの中でも有名なコワーキングスペースにもスキャンダルがありました。創業者が他の創業者にお金を渡して、会社から追い出そうとしたという話です。
– LIFT99をウクライナに建てる上で苦労したことはありますか?
人を雇うだけでも、とても大変でした。エストニアの4倍の量の手続きを経ました。契約を終わらせるとなると、さらに大変なようですが……。
色々な法律に照らし合わせて、なんとか人が雇えました。しかし、周りのウクライナの人たちは、「なんでわざわざそんなことをするのか?」と。
どうやらあまりにも手続きが煩雑だからか、企業も厳密に法律を守ろうとしないようです。
でも仕方ないんです、私たちはエストニア人です(笑)。法律があったらそれを守らずにはいられません。なので、LIFT99はウクライナでは稀な、すべてのウクライナの法律に従った会社でもあります。
また、私たちは自分の弁護士とここ3週間喧嘩していました。
「犬をオフィスに持ち込むことはできない」と言うんです。信じられますか?
エストニアではペットを会社に連れてくるのは多くのオフィスで当たり前です。ですが、キエフではできないと言うのです。
– それは結果的にどうなったんですか?
なんとか、持ち込めることになりました。私たちは、公式に、キエフで初めてのアニマルフレンドリーなオフィスにもなります。
改めて感じるエストニアのすごさと、ウクライナの可能性
まず、忙しい中、時間を作ってくれたRagnarさんに感謝感激です。
Ragnarさんとウクライナのスタートアップについて一時間ほどお話しして改めて感じたのは、エストニアのすごさ。
「ウクライナの書類手続きが大変」とRagnarさんは言っていたけど、オンラインで会社登記諸々すべて済んでしまうエストニアがまず普通じゃない。そんなエストニアに慣れたら、ウクライナじゃなくてもどの国に行っても書類手続き大変に感じるのでは……。
また、エストニアの「スタートアップと国家が一緒に成長していこう」という姿勢も改めて普通のことではないんだなと感じた。エストニアにいると当たり前に思ってしまうが、ウクライナのように政府自身がスタートアップ成長の邪魔になっているところだってあるわけで。
エストニア大統領が度々スタートアップのイベントに出ているのも象徴的だと思う。(そして、まさかLIFT99のキエフ拠点にまでもう既に来ていたとはびっくり。先越されてるぞ。)
会社登記のクリアな手続き方法や、国家への信頼は、エストニアのスタートアップがスタートアップ自身のことに集中できる環境を作っている。スタートアップ自身の成長に関係の無いこと(税対策や登記のための書類作成)に時間と手間を奪われないというのは、エストニアスタートアップの特権な気がする。
と同時に、ウクライナスタートアップのこれからの可能性もばしばしと感じました。
Ragnarさんに紹介して貰ったスタートアップだけでも、めちゃくちゃ世界に羽ばたいてるし。むしろ日本よりもウクライナのスタートアップの方が世界で活躍してるかも…?と思ったり。
海外に拠点を移して投資を受けたり、はたまた資金調達無しで自分たちの資金だけでまかなったり、スタートアップにマイナスな国の環境をものともせず、成長していくウクライナのスタートアップには脱帽🎩
IT国というイメージはまだあまり無いかも知れないですが、ソ連時代の宇宙開発拠点、そして今は欧米企業のアウトソーシング場として着実に技術力を蓄えてきたウクライナ。
Ragnarさんの言葉を借りれば、「ウクライナには技術を持つ人材は揃っている」
ここにLIFT99というエストニア・グローバルでの成功ノウハウを持った団体が参入することで、さらに世界で活躍するウクライナスタートアップが現れるはず。
ただ、エストニアのようにスタートアップの成長がウクライナ全体の成長に直結するのかはやっぱり疑問が残るところ。
今の状況だと、ウクライナのスタートアップが世界に出るには(投資を受けたりするには)、海外に会社登記をしないといけないようだし。そうしたら税金はウクライナではなく、登記した国に納めることになる。
しかし、本部がアメリカだとしても、開発拠点は賃金の安いウクライナに残ることが多いというので、たとえ「アメリカ企業」になっても、スタートアップが成功すれば回り回ってウクライナの人たちの経済状況はよくなるはずだから、結果としてウクライナ全体にはプラスなのかな。
当初想像していたよりもずっと興味深かったウクライナのスタートアップシーン。最初はただスタートアップが出てきているだけかと思っていたが、ウクライナの様々なハンディキャップを乗り越えた上での成功だと知ると、重みが違う。
ウクライナにいる間に、もっと知りたい。
読んで下さっている方へ:
ウクライナのスタートアップ関連で、「特にこういうことが知りたい、聞きたい」ということがありましたら、教えて下さい!
この記事で気になった方は、LIFT99のウェブサイト等もチェックしてみてください!エストニア、ウクライナのスタートアップシーンに興味ある人は、フォローしておくと、情報源としても役立つと思います。エストニアやウクライナで度々イベントを主催したりもしているので。
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では、Па-па!👋🏼