こんにちは、相も変わらず、ゆみこです。
エストニア、ウクライナと続いて、今回は、ギリシャのスタートアップについて取材して来ました。
「いやなんでギリシャ」
「経済危機なんじゃないの?」
と思う人もいるかもしれませんが、実は最近、ギリシャは思わぬ盛り返しを見せているようなんです。
2018年には首都アテネが「 European Capital of Innovation」に選ばれたり、 ギリシャのスタートアップや中小企業に向けた320億円相当(2億6000万€)!!!の投資ファンドがEuropean Investment Fundとギリシャ経済省が共同設立されるなど、ヨーロッパの中でも目立つ存在になってきているのです。
そんな訳で、今回は、まだ経済危機の影響が色濃く残る2012年にギリシャ初のコワーキングスペースthe Cube(旧名CoLab)を立ち上げ、ギリシャのスタートアップシーンの酸いも甘いも知り尽くした、Maria Calafatisさんに取材してきました。
目次
- 1.経済危機がギリシャ人をcreativeにさせた
- 1-1.アテネのthe Cubeから巣立ち、世界で活躍するギリシャスタートアップ。
- 2.起業家はborn or made? 難民向けのプログラムを組む理由
- 3.「長男はギリシャを出て行く」
- 4.立ち退きの指示が出ている?!いつだって起業家は大変。
- 5.「アテネ市には期待してない」ギリシャのスタートアップシーンのこれから
- 6.感想
経済危機がギリシャ人をcreativeにさせた
ーギリシャのスタートアップが盛り上がっているということに少し驚いています。大体いつ頃からこの流れが始まったのでしょうか?
やはり、経済危機の影響が大きいです。確かに、経済危機はギリシャにとって困難な時期でした。例えば、bran-drain(人材流出)といって、多くの才能ある若者がギリシャから出て行き、他国で就職することが相次ぎました。
しかし、経済危機はギリシャ人のcreativityを刺激することにもなったと思います。というのも、人は、何もかも持っている状態では、creativityは出てこないものです。
経済危機前、ギリシャでは「公務員になってしまえば、一生困らない、安定だ」という価値観がありました。若者も、チャレンジするというよりも、キャリア面では保守的だったと言えると思います。
また、これは一方では良いことなのですが、ギリシャは家族からのサポートがとても手厚いんです。どうにか困っても、家族が何とかしてくれる。ギリシャでは結婚するまで、30歳になっても実家で暮らしている人が沢山います。
ヨーロッパの他国、例えばドイツでは18歳になったらみんな「大人」として自立しないといけないですが、ここでは家族、特に「ギリシャのママ」は子供になんでも与えてあげようとします。そうしたことも、ギリシャ人の、チャンレンジしない・保守的な傾向を強めていたと思います。
しかし、経済危機が起きて、全てが変わりました。公務員はもはや安定した職業でもなく、しかも、過去の公務員の安定は汚職や不正の結果だということがわかりました。何も無くなったら、creativeになるしかありません。自分で何かを興そうという人が出てきました。そして、もう「安定した就職先」なんて無いですから、新しくできたスタートアップに入る人も増えてきました。
実際に、どんなスタートアップがあるのか、チラ見してみましょう。
アテネのthe Cubeから巣立ち、世界で活躍するギリシャスタートアップ。
・Beat
ギリシャのスタートアップの中で、1番の成功者といってもいいかも。2017年に独ダイムラーが4300万ドル(約48億円)で買収。配車アプリBeatを運営。Uberが出てくる1年前にアテネでスタート。今は南米が主な活躍場所。メキシコシティやボゴタにもオフィスがあるよ。
アプリのクラッシュレポートを簡単に分析できるサービスを提供。私は知らなかったのだが、ギリシャから帰ってきて検索してみると、なんと日本のエンジニアにもかなり重宝されているようだった(!)。
2011年にアテネでスタートし、2013年に米Splunk社によって買収。BugSenseを起業したPanos Papadopoulosさんは、その後ギリシャスタートアップ専門のVCを立ち上げる(この話はまた後で!)
・balena(旧Resin.io)
コネクテッドデバイスを開発するためのプラットフォームを提供。2013年に起業。現在のオフィスは、アメリカのシアトル。
起業家はborn or made? 難民向けのプログラムを組む理由
ーThe Cubeは、コワーキングスペースだけではなく、イベントも開いているんですよね?
コワーキングスペースは何よりも、コミュニティが大事だと思っています。起業家やスタートアップの人たち同士が繋がれるように、週に2回イベントをホストしています。
また、子供向けのアントレプレナーシッププログラムも、ギリシャの小学校と協力して開いています。
(Mariaさんから逆質問) 起業家は、生まれるもの(born)だと思いますか?それとも、作られていくもの(made)だと思いますか?
ー私はずっと生まれるものだと思ってきました。起業家になるような人の性格とか素質とかって、生まれ持ったものが大きいような気がして。
確かに、起業家に向いている性格の人はいるかもしれませんね。でも、私は、アントレプレナーシップは、作られていく部分・育てられる部分も大きいと思っています。しかも、それは小さい頃に身に付けておけば、さらに効果的だと思います。
学校では、子供たちは言われたことをやります。ですが、それでは自主的に動く力が養われない。
ー(ギリシャの小学校でも似たような問題があるんだな…)
The Cubeでは、子供達にこそアントレプレナーシップを育んで欲しいと思い、アントレプレナーシッププログラムを組んでいます。例えば、どの段階でexitするか、とかどうアイディアをピッチするか、などまでロールプレイで自分たちで決めていきます。
また、難民の人に向けたプログラムも運営しています。
CampusBusといって、もともとは難民キャンプ近くにバスを止めて、その中で難民の人たちが、フリーランサーとなるためのスキルを学ぶ場を提供していました。が、あまりにも参加者が増えてきたので、一箇所ではなく、今は各地をバスで回るスタイルになりました。
ー具体的にはどんなことを学ぶんですか?
難民の人たちは、言語が堪能なことが多いです。なので、UpWorkやFreelancerといったプラットフォームを紹介して、そこでどのように彼らにあった仕事を探すか、どのように仕事を提案するかなどを学びます。
「長男はギリシャを出て行く」
ーMariaさんはもともと起業家になりたかったのでしょうか?
私はいろんな仕事をしてきました。公務員になったことはないですが…笑。
ヨガのインストラクターをやったり、秘書をやったり、あとは貿易関係の仕事で、ポルトガル語の通訳もしていました。もともと私自身ポルトガル出身で10代の頃に家族とギリシャに引っ越してきたんです。
ギリシャでは、働く女性が子供を持つとき、色々と計画するんですよ。ある程度のポジションになってから、子供を持たないと、クビになってしまうかもしれないので。帰ってきてもちゃんとポストがあるように、出世してから子供を持つ人が多いんです。
でも、子供を持つって自分の人生のことなのに、すごく他人と会社に振り回されていますよね。私は最初の子供ができたとき、自分で切り開いていかないとと思いました。
自分の子供にも、そうしたアントレプレナーシップを持って欲しいです。なので、海外に仕事に行くときも、二人を連れて行きます、早いうちから他の世界を見て欲しいと思っているので。
ー実際、息子さんたちも起業家になりたいんでしょうか?
それは、どうでしょう。でも、長男はすでにギリシャを出て行くことは決めているみたいです。高校を卒業したら、しばらくヨーロッパを巡って、どこに住みたいか決めるようですよ。独り立ちするのは大事なことだと思います。
立ち退きの指示が出ている?!いつだって起業家は大変。
ー今までで一番大変だったことは何ですか?
The Cubeの元となったコワーキングスペースCoLabを他の共同創業者に譲らないといけなくなった時ですかね。彼と私たちは方針が合わなくて、結局、彼がCoLabを続けて、私たちが出て行くことになったんです。
そして、私たちはここにThe Cubeを建てました。CoLabはその後、潰れてしまったんです。
ーそんなことがあったんですね。
コワーキングスペースは、ただお洒落な空間を用意して、働ける環境を提供すれば良いっていうものではないんです。大切なのは、いかにコミュニティを築くかです。The Cubeでたくさんプログラムを運営したり、イベントを開催したりするのも、コミュニティを大切に作っていきたいというところにも繋がっています。そうしたところが、彼と私たちでは考え方が違ったと思います。
「大変なこと」と言えば、今も大変ですよ。ここも、あと少しで立ち退かないといけないんです。
ーえ!?ここを、ですか?
そうなんです。賃貸主が、ここを売りたいようです。今、アテネではどこも家賃がつり上がって行っています。どこもかしこも、AirBnbになっていってますね…。特にイスラエルや中国の外国投資家が、アテネの不動産に注目しているそうです。
ーこれからどうするんでしょうか…?
いくつかの物件と話を進めています。でも、競争が激しいので、なかなか最後までたどり着くのが難しいんです。あともう一歩で契約というところまで行っても、他の人に既に貸す/売ることを決めていたり。
ですが、こうしたチャレンジは、自分達でビジネスをやる以上、いつでも付いてまわります。
ーコワーキングスペースだけでなく、色々なプログラムの運営など、パワフルに動く秘訣はありますか?
まず、メリハリが大切だと思います。私は家にはパソコンを持ち帰りません。全ての仕事は、ここでやります。また、ヨガをすることもリラックスのために良いですよ。
あとは、失敗を恐れないことです。FAIL(失敗)は、First Attempt In Learning(学ぶための最初の一歩)です。そう思えば、できるかどうかを心配するよりも、まずはやってみようと思います。学ぶことが必ずあるから。
「アテネ市には期待してない」ギリシャのスタートアップシーンのこれから
ーEquiFundなど、ギリシャのスタートアップへの投資資金が増えて来ていることについて、マリアさんはどう思われますか?
アテネ市がEuropean Capital of Innovationに選ばれたことを知っていますか?その賞金としてアテネ市は100万€(約1億2500万円)を貰いました。でも、アテネ市が何かしてくれることを期待してません。「Stay away」と言いたいところ。
ーそれはなぜなのでしょうか?
そのお金を市がどう使うかが大事だと思います。
何かコワーキングスペースなどの施設を新しく作るなどして、アテネで作られてきたスタートアップエコシステムをかき乱すのはやめて欲しいです。
私たちだけでなく、アテネにはすでにスタートアップシーンを作って来たプレイヤーが数多くいます。そうした長年の経験を持ったプレイヤーたちと協力しようという姿勢があるなら、歓迎です。
ーなるほど。ギリシャのスタートアップのこれからについてはどう思われますか?
ギリシャのスタートアップは、見てきた通り、海外でも成功を収めています。
ここ最近の新しい流れとしてわくわくするのが、海外でスタートアップを成功させたギリシャの人が、新しくギリシャのスタートアップに投資するという循環が起き始めていることです。
BugSenseを起業し、エグジットさせたPanosが、Marathon Venture Capitalを通して、ギリシャ人が建てたスタートアップ専門に投資しています。拠点は海外でも、ギリシャでも構いません。ギリシャ人のスタートアップが対象になります。
ー(エストニアのSkypeみたい!)面白いですね、それは。
ギリシャへの郷土愛みたいなものでしょうね。
あとは、ギリシャからは若者が流出する問題がありますが、逆に最近は、外国の人が住み始めています。
暖かい気候、フレンドリーな人たち、食べ物も美味しい……ということで。「1ヶ月だけアテネでノマドワーク」のつもりが、アテネに住むようになったという人もいますね。
これからさらにギリシャのスタートアップが盛り上がっていけば、外国から移住する人も増えるでしょう。
<超朗報・後日談>新しい場所が決まった!
The Cubeのフェイスブックを見たら、移転場所が正式に決まったそう!わ〜良かった!!!!
住所は、ちなみにこちら
感想
では、以下、私の感想文!
👽スタートアップは、深セン・シリコンバレーじゃなくたっておもしろい。
ギリシャの経済危機がスタートアップが盛り上がるきっかけとなったって話は、少しウクライナを彷彿とした。(🇺🇦キーフ(キエフ)での取材:経済混乱・革命がスタートアップのきっかけとなったという話)
スタートアップは、やっぱり、何かピンチの時の方が盛り上がりやすいのかなと。
経済状況が安定していたら、大企業にいるって人も多いだろうし、ピンチの時の方がスタートアップへの人材が増えそう。あと、ギリシャの場合は大企業・役所にいることすらリスクになったわけだから、ある意味スタートアップも安全な道になったのかなとか。
スタートアップというと、定番はシリコンバレーや、中国の深セン、あとはベルリンなんかが思い浮かぶけど、ギリシャやウクライナなど、スタートアップ感のない場所でスタートアップが盛り上がってることこそ面白いなと思う。
混沌とした場所から、新しいものは生まれるのかなと思うと、一見悪いことが起きても、悪いことばっかりじゃないんじゃないか。ウクライナとギリシャに行って、そんなことを思い始めました。
👩🏻🚀Skypeがエストニアの起爆剤になったように、ギリシャも…?
BugSenseのCEOが、ギリシャスタートアップ専門のVCを作ったと聞いて、後から思い浮かんだのが、「エストニアのサクセスストーリー」。
Skypeがマイクロソフトに買収された後、Skypeの初期メンバー(いわゆるSkypeマフィア)によってエストニアの次世代のスタートアップに投資が行われ、エストニアのスタートアップ界隈に資金が回るようになったという話。
さらに、Skypeの成功は、「エストニア発の会社でも世界で十分に戦えるんじゃん!」という雰囲気をエストニアのスタートアップシーンにもたらした。
さすがに、マイクロソフトに85億ドルで買収されたSkypeと、Bugsense(いくらで買収されたかは非公開)が同じインパクトがあるとは言えない。
でも、この「海外で成功をおさめたスタートアップが地元に還元」という流れは、ギリシャでも同じように起き始めているし、エストニアのスタートアップシーンがそうして成長してきたように、ギリシャもこれからさらに飛躍するんじゃなイカ🦑と思った。
🕺🏻ギリシャ、いいとこ、一度はおいで
アテネで働く外国人が少しずつ増えてきているというマリアさんの言葉は、アテネに3泊4日しただけだけど、納得できる。
まず驚いたのが、英語ができる人の多さ。ウクライナや日本に比べると、段違いかも(エストニア>ギリシャ>>ウクライナ>日本)。
あとは、何と言っても気候!🌞
エストニアに移住した人が苦しむのは、冬の寒さと暗さだと思うんだけど、ギリシャの気候は最高。しかし、この気候が良いからこそ、サボりたくなるのかなとかも思うんだけど、メリハリきかせて仕事できる人には最高だと思う。
食事もすごい美味しかった。中東から来てる人が多いから、中東料理も地中海料理も食べれて、普段エストニアでエンドレス親子丼ループに陥ってる私は、ギリシャ滞在中に外食の喜びを久しぶりに思い出した。
治安が割と悪い(歩いてたら13歳くらいの物乞いの子に、ポケットの中に手入れられた)のと、役所とかはまだやっぱり仕事が遅いというのは、デメリットかも。
👩🏻💻マリアさん、シャキシャキパワフル。
小柄なマリアさんの、パワフルさに圧倒された。(圧倒されたってインタビューごとに言ってる気がするけど)
信念をもって色んなプロジェクトを同時に動かしている。
そして、トラブルに対しても、どーんと構えてるところが、印象的だった。
特に立ち退きの話の時、焦る様子も、かといって無理に平気そうにする様子もなく、ただ淡々と「こういう事情で、こんなことがあって」と落ち着いて説明する姿にびっくりしてしまった。
だって、すごい大ピンチだよ? ここ立ち退かないといけなくて、でも次の物件も確実には決まっていないって状況。でもそんな時は、ただ焦っても仕方ないし、とにかく考えて行動するしかないんだよな、と何かにつけて焦りがちな私は、為になりました。
マリアさんと話していて思ったのは、自立することの重要さと、コミュニティを大切にする姿勢。マリアさんは周りの人たちや、難民の人たち、あとは自分の子供たちが、自分で生きていけるようになること・独り立ちできることをすごく重要視している。
と同時に、コワーキングスペースをただの働く場所にせず、家族も連れてきて、まさに家族的なコミュニティを作ろうとしているとも感じた。(私も会社に頼らず、独り立ちしたい、、、と思った。)
🇬🇷The Cube Athensのチェックもお忘れなく!💃🏻
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では、読んでくれてエフハリスト!ヤーサス!(ギリシャで覚えた、ただ二つの単語)