人口8,000人のイタリアの町に唯一の日本人!画家の道子さんにインタビュー

インタビュー

こんにちは。2週間イタリアに旅行に行っていました。今回は、その道中、サン・ジミニャーノで出会った日本人の画家・道子さんにインタビュー。

サン・ジミニャーノは、フィレンツェからバスを乗り継いで2時間。「中世のマンハッタン」という(おしゃれなんだかダサいんだかわからない)ニックネームで呼ばれるくらい、中世に競って建てられた数々の塔が有名です。

昼は国内外から来る観光客で賑やかですが、夜はしんと静かになる小さな観光地。人口は8,000人足らず。san-gimignano

そんなサン・ジミニャーノで、画家として活動する道子さん。なぜサン・ジミニャーノに?画家として仕事するってどういう感じなのか?など聞きました。

写真家・岩合さんも魅了されたMarco(猫)の力で、教会から食事に招待される

道子さんのスタジオ「Studio Sen」の目印となるのは、修道士の服を着た猫の像。

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Q. この猫の像には名前があるんですね?

これモデルがいて、近くのサンタゴスティーノ教会で飼われているMarcoっていう猫なんです。

写真家の岩合さんが、トスカーナの猫を撮る回で、ここにも来ていて。Marcoも撮られたんですよ。

私もじゃあ「Marcoの像を作ろう!」と思って、作りました。

この噂がサンタゴスティーノ教会までどうやら届いたらしく、教会から食事会に招かれました。私以外全員修道士の方達で、緊張しました。

買いたいと言ってくれる人もいるんですが、非売品です。

 

Q. サン・ジミニャーノは結構猫多いんですかね?文房具屋さんでも猫見たんですよ(と写真を見せる)

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のしのしと歩くMarco

あ、これMarcoだ!(笑)

文房具屋さんのおじさんが餌をくれるから、Marco入り浸っているんですよね。

〜と話していると、また別の猫が店内に〜

これは、マリブーです。向かいのレストランで働いてる女の子が飼っているんです。

友達がツナをあげていたら、私たちのお店にももっぱら来るようになったんですよ。

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着物の上を陣取るマリブー

マリブーは、招き猫です。マリブーに誘われて、入ってくるお客さんもいるので🐱 

マリブー、私のブログにも人を招いてくれるかい?

宮崎からイタリアへ!しかし習いたかった画法は、古すぎて習えず…

Q. ブログの読者も招いてもらおうということで、まず猫の話題から始めてみました。そもそもなぜイタリアに来ることになったんですか?

私は宮崎出身なんですが、宮崎県が主催する美術展で、「留学賞」というのに入賞して、1年間の留学のお金を援助してもらえることになったんです。

「留学して、その成果を帰国後、発表してね」というコンセプトの賞で、今は無くなっちゃったんですが。

そこで、テンペラという画法を勉強するために、2018年からイタリアに留学しました。

(私がエストニアで暮らし始めたのも、奇しくも同年!)

 


テンペラとは?

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ヴィーナスの誕生もテンペラ画 

油絵が広まる前にヨーロッパで広く使われていた画法。油絵では、絵の具として、顔料(色の元となるもの)に油を混ぜるが、テンペラは、油ではなく主に卵液を用いる(卵テンペラ)。

 

また、テンペラの古典技法では支持体(絵を描くもの)から手作りする必要がある。木の板に布を貼って、さらにその上から石膏などを塗り、乾いてから表面を削って滑らかにするなどの工程がある。


 

私が今使ってる絵の具やキャンバスも、既製のものではなくて、自分で作っています。絵を描くことよりも時間がかかっているかもと思うくらい、手間ひまがかかります。

サン・ジミニャーノには画材屋さんも無いので、フィレンツェに遠足気分で原材料を買いに行ってます。

今飲んでるコーヒー(※エスプレッソをご馳走していただいた!)を絵の具に使うこともあります。

人生初エスプレッソ!

イタリアと日本をミックスしたような作品を作りたいので、画法はテンペラですが、キャンバスに和紙を使ったり、日本の神話・古事記をテーマにした絵を描いたりしています。

宮崎は結構神話が多いんですよ、だから描いてるとホームシックも紛れます。

Q. なぜテンペラに惹かれたんですか?

初めてテンペラに出会ったのは、数合わせで呼ばれた宮崎の美術館のテンペラ講座でした。

大学卒業後、美術館の学芸員アシスタントとして働いていたのですが、「参加者が集まらないから、出てくれない?」と言われて。

でも、一回講座を受けても、全然よくわからなかったんです。

絵の具の扱いとかが難しくて、思うように描けなかった。

それで、嫌だったらやらないんだけど、「もっと知りたい」っていうのが出てきちゃって。次の年も受けて、2年連続で。

先生のいる熊本まで習いに行って。2-3年くらいやって、その後は、独学みたいな感じで、試行錯誤しながら続けていました。

好きになったのは、自分が描きたい抽象的な世界にテンペラが合っていたからというのもあります。

初めて出会ってからはや20年経つので、腐れ縁の友達ですね…。

 

Q. イタリアでの留学はどうでしたか?

まず、噂通り、留学の最後まで滞在許可は出ませんでした。

いろんな人から、イタリアの役所は仕事が遅いから滞在許可出ないこと多いよとは聞いていたんですが、私も全て必要書類も揃えたのに、音沙汰なく。

(イタリアに住んでいた私の友達も、「あなたの書類は火事で全部燃えた」と役所の人に言われたことがあると言っていた)

あと、テンペラ画を今やろうとすると、古い絵画の修復が主で、テンペラ画法を使って絵を描くという勉強はあまり無いということがわかって。

 

Q. えーショックじゃないですか?!

ショックですよ〜。

最初、画家の先生のところに習いに行ったら、既製のキャンバスを使ってて、「えーこれじゃない…」って全然習いたいものと違って

その後、語学学校の人が、絵画修復体験のコースを見つけてくれて、修復士さんの工房に行きました。

そこでは、テンペラ画の支持体作りや金箔を貼る練習、あとはフレスコ画まで色々やらせてもらいました。

でも、私修復士になる訳ではないのになあと思いながら…。

絵が描けない危機!?病気になったからこそ決めたこと

Q. フィレンツェからなんでまたサン・ジミニャーノに引っ越されたんですか?

「もう少し田舎で活動してみたいな〜」と同じ画家の友達に何気なく言ったら、「サン・ジミニャーノに実家がある。一緒に行こう!」となったんです。それで2019年に引っ越してきて、その友達と一緒にここでスタジオ兼ショップをやっています。

サン・ジミニャーノで住民登録したときに、役所の人から「初めての日本人だ」って言われました。小さい町なので。

この友達はフィレンツェのアカデミアにまだ通っているので、店番はたいてい私がやっています。

 

Q. イタリア語で話してるのすごいです!(ちょうど私が来ている間にも、道子さんがイタリア語で対応しているのを目撃)

フィレンツェの語学学校にも通ったんですが、それよりも日々話したり聞いたりしていくうちに自然に学んだのが大きいですね。

特に、サンジミニャーノでお店やるようになって、店番をやってるうちに、どんどんできるようになっていきました。

 

Q. サン・ジミニャーノにこれからも住み続けようと思いますか?

関節リウマチなんですよ。

ここで、突然手が痛くなって、でも「絵を描きすぎているせいからかな?」と思っていたんです。でも、だんだん、トイレするために座るのも痛いくらい、すべての関節が痛くなってきて、これはおかしい、と。

帰国して病院に行ったら、最初はよくわからなかったんですが、血液検査で関節リウマチだとわかって。

信じたくなかったですよ、本当に

宮崎に良い先生がいて、3ヶ月待ちだったんですが、イタリアに帰るという事情を話したら、特別に見てもらえることになって。

「完治は無理ですが、今はいい薬があるから、これでまた絵が描けるようになりますよ」と。

それで、本当に描けるようになるまで回復したんです。

 

病気のこともあって日本に本帰国しようかと考えてたんですが、またサン・ジミニャーノに帰ってきたら、なんか居心地が良かったんです。この環境に癒されて、「やっぱりここで住み続けたい」と思いました。

 

それをイタリア人の友達に言ったら、「住み続けなよ!イタリア医療費無料だし!」と。

リウマチの薬って高くて、日本だと月に10万円くらいかかっていたんです。

でも、同じ薬ではないんですが、自分に合ったものをシエナの病院で見つけてもらって、それがイタリアだと無料なんですよね。

 

もしリウマチになってなかったら、日本に帰っていたと思います。

でも、リウマチになってみて、「何もかもダメになったら、帰ればいい、今自分ができるうちにやろう」っていう気持ちになったんですよね。

幸い、このお店も回っています。

観光地なので、寒い時期はお客さんがゼロの時もあります。でも、前に寄って小さい絵を買った人が、「また夏に帰るから、その時までに大きな作品を買いたい」と後から連絡をくれることもあって。

絵という自分の好きなことで生活ができているから、これからも続けていきたいと思っています

 

Q. アートの世界で生計を立てるって本当にすごいことですよね。いくらの値段をつけたらいいかとかも考えるの大変そうです。

その通りですね。私も毎回値付けは、多分安くし過ぎていると思います…。絵の具もキャンバスもテンペラ画だと既製品は使えないので、一から作っていることも考えると。

ミラノの展示会に行ったことがあるんですが、大きな画廊がパトロンとして付いてる画家さんも多くて。値段も何もかもラグジュアリーな別世界でした。私は下町な感じで(笑)。

 

絵の仕事以外にも、子供に日本語を教える仕事もしています。でもメインの収入は絵ですね。

日本語教室も、私としては、やるからには準備も徹底してやりたいんですよね。でもそうすると、それに時間が取られて、結局「絵が描きたい〜!」となったりしています。

あと、習ってる子たちもみんなが本気でやっているというわけでもないから、授業中にあくびしてる子とかがいると、ガーンって(笑)

カルチャーセンターにも日本語のクラスをやらないかって誘われてるんですけど、迷い中です。

〜ここから感想〜

突然ですが、アメリカ人の同僚(男性)と内輪の冗談でよく言うのが、好きなことを仕事にするには、「You gotta get married to a rich guy!」(金持ちの男と結婚するしかない!)というもの。

金持ち夫なり、「普通の」仕事なり、何かしらの安定がある前提じゃないと、好きなことはできないんじゃないかと思わされることが多いです。

 

だけど、今回道子さんと出会って、そんな自分の卑屈・負け犬的・言い訳がましい考え方を爽やかに覆された気分になりました。

絵を描くっていう好きなことを、実直に仕事にしている道子さんがかっこいい。

 

あと、道子さんが完全にサン・ジミニャーノの地に溶け込んで生活しているのも印象的でした。

近くにお店を構える革職人のおじさんと親しげにイタリア語で話していたり、どの猫がどこで誰に飼われているかの情報を網羅していたり。

8,000人という規模だから、日本人が珍しいから、イタリア語が喋れるから、とかよりも、道子さんの穏やかかつオープンな人柄が、こうやって交流を生んでるような気がしました。

 

寄り道してよかった〜!!!

(本当は、Google マップで見つけたレザー屋さんに行く予定だったんですが、ふと脇道に入ったら、「着物を着ている人がいる…?!」と興味を惹かれて、お店に入ってみた)

道子さんのお店「Studio Sen」の紹介

イタリア旅行でフィレンツェに行く人は多いと思うんですが、ぜひサン・ジミニャーノまで足を伸ばして、道子さんのお店に行ってみて!

都市の観光に疲れた人にもってこいのサン・ジミニャーノ。ゆっくりできる


Studio SenのInstagram

道子さんのInstagram

Grazie mille!

お持ち帰りした、道子さんの作品たち。猫以外の作品もたくさんあるんですが、私も猫好きということもあり、猫だらけに…

 

 

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